モデル生物について – それぞれの利点と特徴

モデル生物とは、実験や研究でよく対象となる生物のことです。

動物実験として、ネズミやチンパンジーを思い浮かべる人も多いかもしれません。この2種の動物もモデル生物です。

この記事では、それぞれのモデル生物を利用する利点や特徴について、わかりやすく解説していきます!

モデル生物を実験で使う理由

すべての生物は、とある原始の細胞の共通祖先に由来すると考えられています。

そのため、細菌と植物と人間——と、かなり形や生態が異なっているように見える生物の間でも、かなりたくさんの共通点があります。

なので、細菌や植物を研究することで得られた知識が、ヒトやそのほかの生物についての理解にも役立ちます。また、倫理的や安全性の理由から人体実験ができないようなことでも、モデル生物を使うことである程度の知見を得ることができます。

どの生物を実験に用いてもよいのですが、研究の対象にするには、実験室で利用しやすかったり、研究に使いやすい生物がいいですよね。

例えば、DNAの研究をするのに、ライオンやクマを対象としてもいいですが、単純に危険じゃないですか? 檻を作るのもお金がかかってしまいますし、エサ代も高くついてしまいます。それよりは、 もっと小さくて安全で扱いやすい生物——たとえば、ネズミやサルを使いたいとは思いませんか?

また、様々な生物に研究対象を分散させるよりも、世界中の研究者が特定の生物を研究し、得られた知識を出し合うことで、より深い生命について知見を得られることもできるとわかりました。

そのため、現在でも「モデル生物」と呼ばれる数種の生物が、広く実験対象となっています。

大腸菌 Escherichia coli (E. coli)

大腸菌

大腸菌は分子生物学で非常に頻繁に用いられるモデル生物です。

大腸菌は原核生物のため小さく、培養液の中で簡単に育ち、また増殖が早いという特徴があります。

ヒトをはじめとして、肉眼で見える生物はすべて真核生物なので、真核生物を研究すべきであるような気がしますが、原核生物でも十分に私たちと共通点があり、実験にも適しています。

DNAの複製やタンパク質の合成などの生命の基礎的な仕組みに関して、大部分の知見は大腸菌の研究から得られました。

そして、大腸菌において得られた知識の多くが、ヒトをはじめとする真核生物にも共通であるとも解明されています。

出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae

大腸菌のような原核生物でも、真核生物に関してある程度の知見は得られるとしても、やはり真核生物も研究したいということで、モデル生物として選ばれたのが出芽酵母です。

出芽酵母は、真核生物としては極めて単純な単細胞の真菌です。出芽酵母はビールやパンを作る際に発酵の役割を果たすため、身近な生物でもありますね。

出芽酵母は、細胞壁を持っていますが、少しは動きます。ミトコンドリアを持っていますが、葉緑体はありません。つまり、動物と植物の中間のような存在です。細菌のようにすばやく増殖することもできます。

酵母の研究により、真核生物の基本的な仕組みや、細胞分裂についての詳細が解明されました。

シロイヌナズナ Arabidopsis thaliana

シロイヌナズナ

植物のモデル生物としての代表格はシロイヌナズナです。

大腸菌や酵母と違って、シロイヌナズナは多細胞生物なので、多細胞生物の研究のために分子生物学者がモデル生物として使い始めました。

植物と動物はかけ離れている存在だと思うかもしれませんが、シロイヌナズナとヒトのほうが、大腸菌とヒトよりずっと近しい存在です。

ユーラシア大陸や北アフリカでよく生えている草花で、日本でも帰化植物ではありますが、生命力が強く、日本中で広く見ることができます。

シロイヌナズナの生命力は実験にとても適しています。室内でもたくさん栽培でき、生命力が強いので、8〜10週間で1個体が数千に増やすこともできます。このため、遺伝的な研究に非常に重宝されるのがシロイヌナズナです。

シロイヌナズナが実験で使われている様子

キイロショウジョウバエ Drosophila melanogaster

キイロショウジョウバエ

遺伝学に最も貢献したのは、小さな昆虫キイロショウジョウバエだと言って過言はないでしょう。

遺伝子染色体にあることや、受精卵が発生する仕組み、体のそれぞれのパーツを作る情報が含まれた遺伝子の特定などは、キイロショウジョウバエの研究で解明されました。

ヒトと全く異なっているように見えるハエですが、発生の仕組みにおいては、驚くほど似ていることがわかっています。

線虫 Caenorhabditis elegans

線虫

線虫は、全ゲノム配列が決定されたはじめての生物です。

線虫は、1個の受精卵が959個の細胞からなる成体になるまで、寸分狂わず正確に発生します。

これは、動物では非常に異例であるため、発生に関与する遺伝子の働きを様々な変異体を用いて調べるのに向いています。

線虫とヒトは遺伝子の70%を同じくしているため、ヒトの発生の仕組みを知るにも有用なモデル生物です。

また、癌に深く関わっているアポトーシスの研究に関しても、線虫によって詳細な分子機構が解明されました。

ゼブラフィッシュ Danio rerio

ハエや線虫の研究により、動物についての分子生物学的研究は大きく進展しましたが、次に生物学者は人間により近い脊椎動物を調べることにしました。

そこで、ゼブラフィッシュに白羽の矢が立ちました。

ゼブラフィッシュは生後2週間も透明であるため、顕微鏡で観察しやすいためです。

マウス

マウス

マウスがモデル生物であるというのは有名ですね。

細菌では、人工的に操作した遺伝子を取り込んだり、遺伝子を変化させたりした変異マウス、ノックアウト・マウスというマウスを作ることができます。

この技術により、特定の遺伝子がどのような働きを担っているかが調べられています。

ヒト

いかにモデル生物が優れた研究対象であるにせよ、わたしたちの最大の関心は、わたしたちそのもの、ヒトです。

しかし、ノックアウト・マウスを作るのと同様に、ノックアウト・ヒューマンを作るわけにはいきません。

では、どのように生物学者はヒトを研究しているのでしょうか。

in vitroとin vivo

細菌や酵母は培養皿の中で増殖されます。これと同じように、ヒトの細胞も培養皿の中で生き続けることができますし、増殖したり、働きを示したりします。

このような培養細胞を用いた実験はin vitro実験と呼ばれます。in vitroは「ガラス容器内」という意味です。

一方、まるごとの生物を使う実験はin vivo実験と呼ばれますが、これはヒトではかなり難しい場合が多いですが、新薬の治験のような場合はin vivo実験が行われた後、新薬は承認されます。

たとえ、培養皿の中であったとしても、神経細胞が軸索を伸ばしたり、心筋細胞が収縮したりと体内にあるときと同じ活動をします。

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