DNAポリメラーゼは酵素(タンパク質)の一種です。ポリメラーゼとは、核酸(DNAとRNA)の合成を触媒する酵素のことです。よって、DNAを複製するタンパク質はDNAポリメラーゼで、RNAを合成するタンパク質はRNAポリメラーゼと呼ばれます。
DNAポリメラーゼにはDNAの複製が行われる際に、鋳型のDNAにヌクレオチドを付加していくはたらきがあります。DNAポリメラーゼが相補的塩基対を間違って付加してしまう確率は、10⁷ヌクレオチドあたりに1回と言われています。
なぜDNAポリメラーゼはエラーを起こさず、これほど正確にDNAの合成を行うことができるのか解説していきます!
DNAポリメラーゼの触媒は極めて正確
DNAの塩基同士は水素結合によってA-TとG-Cの組み合わせで相補的につながっています。この組み合わせは比較的安定な結合なのですが、それでも水素結合だけではA-CやT-Gという組み合わせができてしまうこともあります。
DNAポリメラーゼがエラーを起こさずDNAを合成することができるのには、主に2つの性質がDNAには備わっているからです。
DNAポリメラーゼは正しい塩基対になっているときだけ触媒する
DNAポリメラーゼは鋳型DNA鎖とそれと対をなそうとしているヌクレオチドを「監視」する役目を担っています。そして、正しいヌクレオチドが付加しようとしているときだけ、触媒作用を発揮します。
間違いを起こしたときには校正を行う
DNAポリメラーゼが間違いを起こすことは滅多にないのですが、もしエラーをしてしまった場合には校正(proofreading)と呼ばれる過程によって、間違いを修復します。
DNAの校正はDNAの合成と同時に行われます。次のヌクレオチドが付加されるまえに、DNAポリメラーゼはその前に付加されたヌクレオチドが、元の鋳型DNAに対して正しいヌクレオチドかどうかをチェックします。
もし間違ったヌクレオチドが付加されていた場合、DNAポリメラーゼはそれを取り除き、もう一度、ヌクレオチドを付加し直します。そして、鋳型DNA鎖に対して正しいヌクレオチドが配列されている場合だけ、次のヌクレオチドを付加していきます。
2段階のプロセスでDNA合成精度を強化
DNAポリメラーゼの合成を行う部分と校正を行う部分は別々の場所です。はじめにDNA合成の領域でヌクレオチドが付加されてから、次に校正のための領域に移ります。校正が行われるのはホスホジエステル結合を切断する働きがある部分です。
この校正のはたらきによって、DNAポリメラーゼが5’→3’の方向にのみ働く理由が説明できます!
DNAポリメラーゼ自体はいつ作られるのか
大部分のDNAポリメラーゼは、DNA複製が行われる前に、DNAポリメラーゼ遺伝子から大量につくられます。
細胞外から「増殖せよ!」というシグナルがくると、DNAポリメラーゼ遺伝子を活性化するはたらきのあるタンパク質がはたらきはじめます。そして、遺伝子がRNAに転写され、細胞質にあるタンパク質製造装置リボソームへと伝わり、DNAポリメラーゼが作られます。
細胞質で作られたDNAポリメラーゼは核の中へ移動し、DNAが複製されるときまで「待機」しているのです。
なぜDNAポリメラーゼは5’から3’の方向にだけ働くのか
DNAポリメラーゼは5’→3’の方向にのみ働くため、岡崎フラグメントができてしまいます。この面倒で不自然な過程が踏まれる理由は、DNAポリメラーゼが校正を行うからなのです。5’→3’の方向にDNA合成を行わなくては、校正を行うことができません。
もし3’→5’の方向にはたらくDNAポリメラーゼがあったら…
仮に3’→5’の方向に働くDNAポリメラーゼがあったとしたら、岡崎フラグメントがつくられることがないのでDNA合成の能率は向上しますが、その代わり校正ができなくなります。もしくは、校正をしてしまうと、それ以上、化学反応が行えなくなってしまい、DNA合成が続けられなくなってしまいます。
なので、岡崎フラグメントをつくり、ラギング鎖ができてしまってDNA合成が遅れる部分がつくられることがあったとしても、5’→3’の方向にのみDNAポリメラーゼは優秀なのです。