DNAの複製は極めて迅速に行われますが、間違いが起こるのは10億から100億ヌクレオチドに1回といわれています。
どのようにしてこれほど正確にDNAの複製が行われるのでしょうか?
DNA複製の際に誤りが起こった場合
DNAが複製される際に間違った塩基対が形成されてしまった際に、その誤りを正すため、いくつものDNA修復機構が存在しています。
水素結合は誤りやすい
塩基同士は水素結合によってつながっています。DNA複製が水素結合だけに依存していたならば、誤りが起きる確率は100回に1回ほどの高確率になってしまいます。なので、単純な物理化学の法則では、この極めて正しいDNAの複製は説明ができません。
DNAポリメラーゼによるDNA複製はだいたい正確
水素結合に対して、DNAポリメラーゼによる複製は、それなりに正確です。DNAポリメラーゼが誤りを起こす可能性は1万回から10万回に1回程度といわれています。しかし、実際の10億から100億ヌクレオチドに1回にはまだまだ及びません。
DNAポリメラーゼはエキソヌクレアーゼとしても働きます。この性質は間違った塩基対があるときに役に立ちます。ポリメラーゼはDNAに沿って一連の前進したり後進したりします。そのときに、もし正しい相補的な塩基対になっていなかった場合、修正を行います。これはDNAの校正、また編集と呼ばれます。この機能のおかげで、間違いが起こる確率は1000万回に1回まで下がります。
ウラシルを除去する酵素
DNAにはウラシルは含まれません。ウラシルはRNAには含まれますが、逆にチミンはRNAには含まれません。化学構造式を見てもらえばわかると思いますが、チミンとウラシルはとてもよく似ています。間違ってウラシルがDNAに混ざってしまったときに、これを取り除き、チミンで置き換える酵素があります。この酵素が働けば、さらにDNA複製の正確性は増します。
間違っているのは新しいDNA鎖のほうである確率が高い
DNAの修復が難しいのはDNA複製が終わったあとに間違いがわかった場合です。ACという対合が見つかったとしても、Aが間違っているのか、Cが間違っているのかがわかりません。しかし、DNAは古いDNAを鋳型にして新しいDNA鎖の複製を行うので、元のDNA鎖の塩基配列のほうが正しい確率が高いものです。
細菌では、古いDNA鎖にメチル基がついていて、これが目印となって新しいDNA鎖と古いDNA鎖を見分けることができます。なので、細菌はこのメチル基を手がかりにして、新しいほうのDNA鎖の修復を行います。
DNAの損傷を修復する
紫外線や化学反応によってDNAが破損してしまった際に働くDNA修復機構があります。
紫外線によって生じた歪みの修復
紫外線によってDNAが歪んでしまうことはよく知られています。紫外線からDNAの入った核を守るためにメラニンが合成されて、肌は日焼けします。
では、紫外線のなにが悪いかというと、隣り合って並ぶ連続したピリミジン塩基、特にチミンが紫外線の作用によって結合し、チミン二量体になってしまうからです。もし2つのチミンが結合してしまうと、DNAの二重らせん構造が歪んでしまいます。そのために紫外線は有害なのです。そして、この歪みを検出して修復する機構があります。
色素性乾皮症という遺伝性疾患がありますが、この患者はそのタンパク質を作る遺伝子に欠陥があるため、紫外線によって生じた損傷を治すことができず、日光を浴びた皮膚細胞のDNAに損傷が蓄積した結果、変異が生じてしまいます。この変異は皮膚癌はじめとする深刻な皮膚障害を引き起こしてしまいます。