タンパク質の分解

シャペロンはタンパク質が正しい立体構造を取るように手助けします。しかしながら、形の悪い不良品のタンパク質ができてしまうことがあります。また、作り続けるとタンパク質が増えていく一方なので、不要になったタンパク質は捨てなければなりません。

このようなタンパク質はどのようにして分解されるのでしょうか。

タンパク質を分解するシステムには、ユビキチン・プロテアソーム・システムとオートファジー・リソソーム・システムのふたつの異なった分解系が存在しています。

まず、タンパク質を分解するにあたって、分解するべきタンパク質と分解してはいけないタンパク質を区別しなければなりません。

タンパク質を分解するのは主にリソソームという細胞小器官です。リソソームの中には40種類もの加水分解酵素が存在しており、タンパク質以外にも核酸、糖質、脂質など、あらゆる物質を加水分解します。リソソームには、リソソームの小器官内に入ってきたタンパク質は分解し、入ってこないタンパク質は分解しないというルールがあります。

もしリソソームの膜が破れても、加水分解酵素飛び出したら、リソソームの中に入っていないタンパク質が分解されると思うかもしれません。しかし、その心配はありません。リソソームの中にはプロトン(H⁺)が能動的に送り込まれているので、内部はpH5の弱酸性になっています。加水分解酵素はこの弱酸性のpH下でよく働くようになっているので、細胞質のpH7.2という中性の環境下ではほとんど活性しないのです。

リソソームの加水分解酵素がひとつなくなるだけで、リソソーム病と総称される遺伝病を発症してしまいます。その酵素が分解する物質が分解されることなく細胞内にたまりつづけてしまうからです。それほどリソソームで物質が加水分解されて分解されることは重要です。

このようにリソソームが重要な機能を担っているため、細胞内のすべての物質はリソソームに運び込まれて分解されるものと考えられていました。しかし、リソソームの環境を加水分解酵素がはたらかないpHにしても、タンパク質が分解されることが発見されました。そこで、リソソーム以外にもタンパク質を分解する仕組みがあるのではないかと考えられるようになったのです。

また、リソソームの酵素がタンパク質を分解する際にはエネルギー(ATP)を必要としません。しかし、リソソーム以外でタンパク質が分解されるときにはエネルギーを必要としているようだとわかりました。

ATPを利用するタンパク質分解でも、分解するべきタンパク質と分解しないタンパク質を区別する必要があります。そこで登場するのがユビキチンです。ユビキチンはタンパク質の一種で、分解するべきタンパク質に結合して目印になります。

ユビキチンは分解するべきタンパク質にひとつだけ結合するのではなく、2つ、3つとたくさん結合することによって分解すべきという明瞭な目印になります。このようにユビキチンが結合することは「ユビキチン化」と呼ばれます。

ユビキチン化したタンパク質はプロテアソームと呼ばれる酵素によって分解されます。ちなみにタンパク質を分解する酵素はプロテアーゼと総称されます。

ユビキチンはどこにでも存在している、つまりユビキタスだったので、ユビキチンと命名されました。しかし、命名されてからタンパク質分解に重要な役割を持っていることが判明したのです。

ユビキチンは細胞周期にも関係しています。ユビキチンが分解するべきタンパク質に結合しなくなる温度になると、細胞は細胞分裂をやめてしまいます。これは、細胞が分裂しなければならない時期になると、細胞周期のブレーキ役になっているタンパク質にユビキチンが結合し、そのタンパク質が分解されるために、細胞分裂が進行するような仕組みが存在しているからです。

そして、さらにオートファジーという機能も発見されました。電子顕微鏡で細胞を観察していたド・デューヴという研究者が飢餓状態の細胞ではミトコンドリアやペルオキシソームなどの細胞小器官が膜で囲まれていることに気づきました。そして、細胞は飢餓状態の際、自分自身の一部を食べて生き延びているではないかと考え、ギリシャ語で「自食」の意味のあるオートファジーと名付けました。

しかし、電子顕微鏡では固定した死細胞しか観察できないので、長い間オートファジーの存在は忘れられていたのですが、日本人の大隅良典という酵母の研究者が、酵母を栄養飢餓条件下で培養するとオートファジーが起こることを発見したのでした。

オートファジーの仕組みは、まず小胞体とミトコンドリアが接触しているところから、隔離膜と呼ばれる膜が伸びてきて、その膜がミトコンドリアなどを含めた細胞質部分を取り囲みます。こうしてできた二重幕の小胞(オートファゴソーム)にリソソームが融合し、リソソームの中にある加水分解酵素がオートファゴソームの中身をどんどん分解して壊していくのです。

プロテアソームでは紐状になったタンパク質しか分解はできないのですが、リソソームには40種類もの加水分解酵素が含まれているため、細胞小器官でも分解することができます。

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