DNAの合成がはじまる場所は複製起点と呼ばれ、その複製起点に複製フォークと呼ばれる構造がつくられることによって、DNAの塩基同士を結んでいる水素結合がほどかれます。
DNAはとても安定した構造で、水素結合でしっかりと結びついているので、熱エネルギーで結合をほどこうとすると、沸騰水に近い温度にしなければ結合はほどけません。
どのようにして複製起点で効率よくDNA複製が開始されているかを考えていきましょう!
複製起点の場所
DNAには複数起点(replication origin)と呼ばれる特別な塩基配列があります。複製起点はDNAの塩基を引き離しやすくなっている部分で、ここに複製に関わるタンパク質が結合して、二本鎖DNAを引き離して水素結合を切るのです。
オーク(複製起点認識複合体)
DNA複製は複製起点で開始するのですが、この複製起点の場所を決定するのは複製起点認識複合体(Origin recognition complex)と呼ばれるタンパク質です。長いので、単に「オーク(Orc)」と呼ばれることが多いです。
オークはいつもDNA上にあるDNAの複製が開始される場所に存在していて、オークがいる場所が「複製起点」と呼ばれます。
切りやすいA-Tの水素結合
酵母や細菌などの複製起点は約100塩基対の領域で、A-Tが多い部分が複製起点になることが多いとわかっています。G-C間の水素結合は3つですが、A-T間は2つなので、DNA鎖がほどけやすいのです。
複製起点の数はとても多い
細菌のゲノムは1個が数百万塩基対の環状DNAで、複製起点は1個だけです。しかし、ヒトのDNAは46本の染色体があり、ヌクレオチドの総数は60億と考えられています。大量のヌクレオチドの複製を1カ所の複製起点から開始していたら、いつまでたっても複製が終わりません。
しかし、生物というのはよくできていて、ヒトのような大きなゲノムをもつ生物のDNAの複製起点はたくさんあります。ヒトの場合は4万カ所はあると考えられていますが、正確な数字はわかっていません。1これだけ多くの複製起点でDNAの複製が同時に開始されるので、ゲノム全体の複製にかかる時間は大幅に短縮されているのです。
複製フォークができるまで
開始タンパクが複製起点のDNAに結合して二重らせんを開くと、そこにDNA複製に関わるタンパク質が集まって複製装置をつくり、DNA複製を開始します。
複製フォークの形成
複製中のDNAの二本鎖が開いたY字形の部分を複製フォーク(replication fork)と呼びます。複製起点で2個の複製フォークが現れ、そこに形成された複製装置がDNA鎖に沿ってそれぞれ両側に動くことで、DNAの二本鎖が開かれます。
真核生物も細菌も、このように複製フォークが両側に動いていく様式で行われ、このようなDNA複製方式は両方向性であると呼ばれます。複製フォークは細菌では1秒間に約1000塩基対、ヒトを含む真核生物では100塩基対です。真核生物のDNA合成が十分の一のスピードなのは、染色体の複雑なクロマチン構造を通過しながら複製するのが難しいためであると考えられています。
複製フォークを左右へ動かしていくのは複製装置です。とくにDNAポリメラーゼという酵素が中心となって働きます。このDNAポリメラーゼが親鎖の一方を鋳型にして、新しいDNA鎖の3’末端にヌクレオチドを付加していきます。
複製フォークは
DNA合成は複製フォークの動く方向に沿って、新しいヌクレオチドが配列されていくように見えます。しかし、下の図のようにDNAが合成されることはありません。DNAポリメラーゼが5’から3’の方向へのみはたらくという方向性があるからです。図の上側の部分の5’→3’の方向にはDNA合成が行えますが、下側の3’→5’の向きにはできません。
なので実際は、5’→3’の方向に円を描くようにDNAは合成されます。見かけ上の3’→5’への方向では、複製フォークが動く方向とは逆の向きに、短い断片に分けて少しずつ不連続にDNAは合成されます。この小さな断片のことを岡崎フラグメントといいます。
岡崎フラグメントは後に酵素によって結合され、1本のDNA鎖になります。このように、岡崎フラグメントができる領域は合成が少し遅れるのでラギング鎖(lagging strand)と呼ばれています。一方、連続的に合成される側のDNA鎖はリーディング鎖(leading strand)と呼ばれます。
追記・参考文献
- 『DNA複製の謎に迫る 正確さといい加減さが共存する不思議ワールド』武村政春, 講談社, 2005