SNP(スニップ/一塩基多型)についてわかりやすく解説

一塩基多型とは、ある生物集団のゲノムに、通常とは異なる1つの塩基が存在し、その1塩基の変異が広く集団内に存在することです。

あたりまえですが、ゲノムの塩基の配列は種によって異なります。しかし、同じ生物種の中でも個体によって違いがあります。同種内でのゲノムの配列の違いのことを「多型」といいます。一塩基多型は、その名の通り、ある特定の種において「1塩基だけが多型になっている」ことを指しています。

一塩基多型はSNPスニップといわれることが多いです。SNPはSingle-nucleotide polymorphismの略で、この英語を和訳した言葉が「一塩基多型」です。

たった塩基が1つ異なるだけですが、これにより、コドンが変化してしまい、異なるアミノ酸が翻訳されてしまいます。なので、スニップのタイプの遺伝子をもつ人は、酵素がはたらかなくなったり、特定の病気にかかりやすくなったりしてしまいます。

例えば、お酒に強い人・弱い人がいますが、これは東アジア人にのみ存在するスニップのためです。東アジア人以外は基本的に全員がお酒に強い遺伝子をもっています。

では、お酒の強さを例にとって、SNPについてわかりやすく解説していきます!

お酒の強さに関係する遺伝子とSNP

アルコールを摂取するとアルコール分解酵素が働き、アセトアルデヒドが作られます。アセトアルデヒドは猛毒なので、速やかに分解されなければならないのですが、アジア人の多くは、アセトアルデヒドを分解できない遺伝子をもっている人が多く存在します。

アルデヒド分解酵素は「ALDH2」という遺伝子が作るのですが、アジア人にのみこのALDH2遺伝子のスニップが存在しているからです。

お酒に弱くさせるALDH2遺伝子のSNP

ALDH2のエキソン中の塩基配列に「GAA」という部分があります。この塩基配列が1文字変わって「AAA」となっている人が東アジア人には多く存在します。

「GGA」が「AAA」と1文字変わっているだけですが、これに対応するアミノ酸が「グルタミン酸」から「リシン」に変わります。そのため、この1塩基の違いにより、正常にはたらかないアルデヒド分解酵素が作られてしまうのです。

SNPは3つの遺伝子型をとることができる

わたしたちは遺伝子の半分を父親から、もう半分を母親から受け継ぎます。なので、1塩基が異なるだけのSNPですが、これにより、ホモ接合が2通り、ヘテロ接合が1通りの3つの遺伝型をとることができるのです。

ALDH2の例で考えると、以下の3種類となります。

– GAA型のホモ接合
– GAA型とAAA型のヘテロ接合
– AAA型のホモ接合

SNPによってもたらされる表現型の違い

「GAA型」のホモ接合のALDH2遺伝子をもつ場合、アセトアルデヒドを速やかに分解できます。しかし、「AAA型」のホモ接合である場合、アセトアルデヒドを分解する能力はゼロとなってしまいます。

「GAA型」と「AAA型」のヘテロ接合のALDH2遺伝子をもつ場合、アセトアルデヒドを分解できる酵素が半分しかないことになります。このように、SNPによって遺伝型が異なるとき、表現型も異なってしまう場合があります。

ちなみに、このお酒の強さに関しては、実際はもう少し複雑で、ヘテロ接合の人はホモ接合の人と比べると1割程度しか活性しない酵素しかもたないと考えられています。ヘテロ接合の遺伝子をもつ人は、日本人には約40%いると考えられていますが、その人たちは皆お酒に弱くなってしまいます。1

ここではSNPについて解説しているので、これ以上お酒の強さについては踏み込まないことにしますが、興味がある方は別記事をご参照ください。

1人のヒトゲノムには300万ものSNPがある

ヒトゲノムでは、SNPはかなりたくさん存在します。

ランダムに2つのゲノムを選んで、そのSNPを調べると、以下の割合でSNPが存在すると考えられます。

– タンパク質非コーディング領域: 約1000bpごとに1つのSNP
– タンパク質コーディング領域: 約2000bpごとに1つのSNP

ヒトゲノムのほとんどがタンパク質をコーディングしないDNAから構成されるので、30億塩基対のゲノム中に約300万ものSNPが存在するということです。

SNPが遺伝的多様性と進化を担う

SNPの大半は、健康や病気に大きく関わるものではありません。しかし、わたしたちヒトのひとりひとりが異なっていること、つまり遺伝的多様性があることに関して、SNPはとても重要です。

また、私たちに有益な効果をもたらすSNPは、生物が進化し、自然選択を生き残ることにおいても重要です。

SNPのおかげでヒトは牛乳が飲めるようになった

例として「ラクトース消化酵素」を挙げます。ラクトースは牛乳に含まれていますが、ヒトはもともと幼少期しかラクトースを分解できず、大人になるとラクトースを分解する能力が失われていました。

しかし、紀元前1万年~5000年に、ヨーロッパのどこかでラクトースを消化するための遺伝子の塩基に「C」が「T」に変わるという突然変異が起きたようです。

これにより、ヒトは大人になっても牛乳が飲めるようになり、このSNPはとても有益だったため、一部のヒトの間で広まったのです。ここで、なぜ「一部」のヒトと書いたかというと、実は大人になっても牛乳が飲めない人は多く存在するからです。

日本人の多くは牛乳が飲めますが、それはレアなほうで、ヨーロッパ・一部のアフリカ人とアジア人と中東人以外は、牛乳を飲みません。牛乳を飲んだら、小腸で消化することができず、お腹が痛くなったり、下痢をしたりするからです。また、ヒト以外の哺乳類も幼獣の時期以外は乳を飲みません。2

このあたりのSNPと進化については非常に面白いトピックです。ぜひ『ゲノムが語る人類全史』という本を読んでみてください。

ゲノムが語る人類全史
「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは交雑していた」「ヨーロッパ人は遺伝的に全員がカール大帝の子孫である」などと人間の歴史を科学的観点から謎解きをしています。イギリス人の進化遺伝学者アダム・ラザフォード博士によって書かれた本です。

SNPの医学への応用

SNPは遺伝学的な様々な用途に応用ができるため、非常に注目されています。その中でも特に有用であるのが、疾患リスク変異の探査に使えるという点です。

ゲノムワイド関連解析

全ゲノムを対象にした病気に関する解析において、SNPは遺伝マーカーとして利用することができます。

たくさんの人のゲノムを調べ、SNPの遺伝型が決定されると、どのSNPが病気に関係するかがわかったり、健康を害するものであるかを調べられたりします。

すでに500以上の複合形質と一般的な病気でゲノムワイド関連解析が行われており、それらの形質に
影響を及ぼす6000以上の遺伝子が同定されています。3

医療の個別化

ひとりひとり患者さんのゲノムを調べ、個人に合った治療をオーダーメイドするゲノム医学のことを「テイラーメイド医療」「個別化医療」といいます。

また、ゲノムの情報の基づいて薬をつくる「ゲノム創薬」というものがあります。SNPによって、特定の薬に対して副作用が大きくなることがありますが、そのような場合、ゲノムを調べてから投薬することで、副作用を緩和させることができます。4

追記・参考文献

  1. 遺伝人類学入門』太田博樹, 筑摩書房, 2018
  2. ゲノムが語る人類全史』アダム・ラザフォード(著), 文藝春秋, 2017
  3. エッセンシャル 遺伝学・ゲノム科学(原著第7版)』Daniel L. Hartl (著), 化学同人, 2021
  4. 遺伝人類学入門』太田博樹, 筑摩書房, 2018
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