顕微鏡の種類 – 拡大率・見え方・メリット・デメリット

光学顕微鏡より電子顕微鏡のほうが小さなものが見える

学校の理科の実験室にある顕微鏡は「光学顕微鏡」です。一方、大学の実験室や研究機関には、光学顕微鏡の「進化版」や電子顕微鏡という、さらに小さな物質を拡大して見ることができる顕微鏡があります。

なぜ電子顕微鏡のほうが小さな物質が見えるのか

光学顕微鏡よりも電子顕微鏡のほうが優れものなのは、何を使って物質を拡大しているかによります。

光学顕微鏡は「光線」の特性を用いて物質を拡大して観察するのですが、光の波長で見える細かさには限界があります。

一方、電子顕微鏡は「電子線」の特性を用いて物質を拡大して見るのですが、電子線は波長が短いため、さらに光学顕微鏡に比べて、さらに小さな世界を観察することが可能にするのです。

光学顕微鏡

最も一般的な生物学的実験の顕微鏡のひとつです。観察するものそのものの色を見ることができるのも利点です。

しかし、細胞の核など色が付いていないものを観察する時には、染色をしたり、水以外を使って観察するものを封入するといった手間がかかります。

光学顕微鏡で観察した植物細胞

位相差顕微鏡

無色透明のものを観察したいときに主に使用される顕微鏡です。

光は、試料の厚さが異なったり、屈折率が異なったりする部分を通るとき、波のずれが生じます(位相差)。この位相差を明暗の差に変えて試料を観察します。

普通の光学顕微鏡の対物レンズと集光器を位相差用のものに変えるだけで使えるので、とても便利です。また、染色の必要もないため、微生物などを観察する際に殺す必要もありません。

しかし、光の位相差を利用しているため、自然の色とは異なる色で見えるのはデメリットです。試料を縁取るようにハローと呼ばれる光の線が見えてしまい、観察がしにくいこともあります。

微分干渉位相差顕微鏡(ノマルスキー式顕微鏡)

位相差顕微鏡の進化版で、厚いものでも観察しやすく、異なる色合いに変えることもできます。

普通の位相差顕微鏡のようにハローが出ることもないので、自然に近い色と形が観察できますし、立体的に観察することもできます。

蛍光顕微鏡

物質に光が当たったとき、その物質から当てた光とは波長の異なる光が放出されます。この光を蛍光と呼ぶのですが、観察するものに強い紫外線を当てると、試料から蛍光が出ます。これを利用したのが、蛍光顕微鏡です。

試料によって放出される蛍光が異なるため、葉緑体が赤く見えたり、DNAが青白く見えたりします。

そのため、ある試料に「葉緑体が存在しているか」「DNAが存在しているか」と確認をしなければならない実験でよく使用されます。

蛍光顕微鏡で観察したウシの肺動脈内皮細胞

電子顕微鏡

光学顕微鏡では、目に見える光(可視光)が使われます。しかし、可視光の波長では、観察物を拡大できる範囲に限界があります。そのため、可視光よりさらに短い電子線を利用するのが電子顕微鏡です。

電子線は肉眼では見えないので、物質を直接目で見て観察することはできません。そのため、蛍光塗料をぬったスクリーンに像を映して、スクリーンを見て観察します。

また、電子顕微鏡では、光を使うのではないため、レンズもガラスではなく、磁界レンズとよばれる電磁コイルを用います。

電子顕微鏡では、10万倍くらいまで物体を拡大することができ、0.0000002ミリ(0.2ナノメートル)もの分解能があります。光学顕微鏡では1500倍程度で0.0002ミリくらいの分解能なので、電子顕微鏡の発明により、かなりミクロな世界が「見える」ようになったのです。

電子顕微鏡では大きな分子も見ることができます。例えば、DNA分子を見ることが可能です。

電子顕微鏡には主に2つの種類があります。

透過型電子顕微鏡(TEM)

電子顕微鏡のうち、電子線が試料を通り抜けて像を結ぶ方法で、観察物を拡大して見るものが、透過型電子顕微鏡です。

試料が薄くなければ、電子線が通り抜けることができないため、試料をダイヤモンドナイフなどで薄く切る必要があります。50nm以下と、かなり薄く切らないといけないというのがデメリットです。

透過型電子顕微鏡で観察した幹細胞

走査型電子顕微鏡(SEM)

電子線が点となって物体に当たると、物体の表面の凹凸に応じて、強さの異なる二次電子が発生します。この二次電子を集めて、像として映し出すのが走査型電子顕微鏡です。

これはテレビのブラウン管の上を「走って」像を映し出すのと同じ原理なので、「走査型」と呼ばれます。

走査型顕微鏡を用いる一番のメリットは、立体的に物体を見ることができることです。

顕微鏡で原子は見える?

DNAの分子を見ることができると上記で説明しました。では、DNAを構成する炭素原子や水素原子を見ることはできるのでしょうか。

答えは「ノー」です。

しかし、X線結晶解析やクライオ電子顕微鏡法という技術によって、直接、原子の姿を見ることはできなくとも、原子の位置の決定を行うことはできるようになりました。

参考文献:
新生物 生物基礎・生物 チャート式®シリーズ』新制版第7刷、鈴木隆仁他、数研出版株式会社、2018
Essential 細胞生物学』(原書第5版) 南江堂, 2021

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