遺伝子検査や遺伝子診断が最近話題となっていますね。かかりやすい生活習慣病や運動能力などを手軽に安価で調べることができる時代になりました。遺伝子検査キットが販売されており、チューブに唾を吐き出すだけで、肥満の遺伝子の有無や、がんにかかりやすいかどうかなどを調べてもらえます。
しかし、この遺伝子検査、どれくらい正確なのでしょうか。
遺伝子検査 ≠ 遺伝子診断
安くて手軽に受けられる検査は「遺伝子検査」や「DNA検査」と呼ばれています。一方、遺伝病などの病気に直結する遺伝子について検査する場合は「遺伝子診断」と呼ばれます。子どもが生まれるまえに子どもがダウン症などの遺伝子異常がないか調べることも、出生前診断と呼ばれます。
民間の企業が行っている簡易的な遺伝子検査では、診断を行うわけではないため、「遺伝子検査」と称しているというわけです。そうはいっても、得られた情報をもとに生活習慣を改善させることで、肥満や生活習慣病を予防する指標にはなります。
企業によって異なる「遺伝子検査」
しかし、ひとつの病気を引き起こす遺伝子はたったひとつの遺伝子の異常によって引き起こされるものではありません。また、複数の遺伝子が関わって病気を引き起こすので、ある遺伝病にかかりやすくなる遺伝子を持っていたとしても、他の遺伝子でカバーできるものでもあるのです。
遺伝子をトランプのカードでたとえてみましょう。ポーカーをしていて、同じ数字が4つ揃っていたらある病気にかかるとします。しかし、2つ同じ数字を持っていても、その人は健康です。しかし、2つのカードを持っていた場合、遺伝子検査では「この病気にかかりやすい」という結果になってしまうのです。
また、そもそも「4つの数字が揃っていたら発病する」という情報すら怪しいときもあります。遺伝学には統計と確率が根底にありますが、企業がどのような統計資料を用いて「病気へのかかりやすさ」の指標を決定しているのかを開示している企業は少ないのが現状で、企業ごとに基準も異なります。
海外製の検査技術を用いている企業もある
また、企業によっては自前の技術を用いるのではなく、外国製の製品を用いている場合や、検査自体を他社に委託しているところもあります。しかし、日本人と欧米人では特定の病気へのかかりやすさが変わることがあります。
たとえば、欧米人には基本的にお酒が飲めない下戸はいません。これは遺伝的に定まっています。また、白人は日本人よりもはるかに皮膚がんになりやすい体質です。欧米の検査技術や統計を使っては、日本人にとって正確な検査が行えない場合があります。
遺伝子検査をサプリや健康食品を売り込む手段にしている企業もある
また、効果がはっきりとはわからない健康食品やサプリメントを売り込むために、遺伝子検査を行っている企業もあるようです。「あなたは肥満の遺伝子を持っています。なので、このサプリを飲めば、太りにくくなれますよ」という感じに言われるということですね。
遺伝子検査を行うまえには、どのような情報を手に入れたいのかをしっかりと考えてから、検査を受けるかどうかを判断してください。数千円から数万円で受けられるので手軽ではありますが、万一、重大な遺伝病にかかる可能性が高いという検査結果が出た場合、心配になってしまいますよね。
その際は、医師の元で「遺伝子診断」を行う方もいるようですが、そうなると二重にコストがかかってしまうことになります。本当に自分の遺伝子について知りたいのならば、病院で受けられる遺伝子診断や、大学院の遺伝カウンセリングコースを修了した「遺伝カウンセラー」が行う遺伝子診断を受けることをおすすめします。
参考文献: 『DNA鑑定 犯罪捜査から新種発見、日本人の起源まで』梅津和夫, 講談社, 2019