1つの実験で3つの遺伝子について調べることはとても有益です!
2つの遺伝子だけを観察しては、二重交叉が起こることは調べられませんし、3回実験をしたことと同じ情報を得ることができます。遺伝子Aと遺伝B間、遺伝子Bと遺伝子C間、遺伝子Aと遺伝子C間の3種類の実験を行ったことと同じ情報を得ることができるからです。
この記事では、ショウジョウバエを使った実験によって二重交叉が観察された例を用いて、二重交叉と染色体地図について考えていきたいと思います!
染色体の不分離を発見したC・B・ブリッジスは、染色体の不分離を発見した人で、彼もモーガンの弟子でした。彼はX染色体上の突然変異遺伝子を研究していました。
ショウジョウバエの研究では、一般的に、正常遺伝子は「+」で表します。そして、突然変異の遺伝子は「sc」や「ec」などと文字で表します。どの正常遺伝子を表しているか、しっかりと記述したいときには右上に「+」をつけて、「sc⁺」「ec⁺」と表します。
突然変異遺伝子scはscuteの略、つまり、胸の背中にある剛毛がないショウジョウバエ、ecはechinusの略で、眼がざらざらしているという突然変異を表します。また、他の突然変異の遺伝子cvはcross veinlessの略で、翅脈の横線の部分をなくしてしまう遺伝子です。これらの突然変異遺伝子がショウジョウバエのX染色体上にあります。
ブリッジスは以下のような遺伝子構成をもつ雌と雄を交配しました。
雄のX染色体上の遺伝子はすべて劣性なので、この交配から得られた子供は、雄であっても雌であっても、母親の表現型を発現すると考えてよいことになります。X染色体上に乗っている遺伝子ですが、伴性遺伝を考慮せず、得られた子供の数で形質の遺伝について考えてよいということです。
雄にはX染色体が1本しかないので、このような組み合わせの交配実験では、雌1個体における交叉の結果が子供の数に反映されます。
まず、これら3つの遺伝子間で交叉が起きなかった場合の子供の個体数は以下のようになりました。交叉が起きていないということは、「+ + +」または「sc ec cv」のままで、この3つの遺伝子が連鎖したままであるということです。
次に、交叉が起こったときについて考えてみます。交叉が起こる回数と領域には以下の3つが考えられます。
・ Aで交叉が起こる
・ Bで交叉が起こる
・ ABの両方で交叉が起こる
Aで交叉が起こった個体の数は以下のようになりました。1回の交叉によってできる染色体は2種類になるので、2つの表現型が現れます。
上記の2つを合わせた子供の数は、得られた子供の全体の9%でした。
次に、交叉Bのときには以下のような結果が得られました。こちらは、全体の10.5%となりました。
最後に、交叉Aも交叉Bも両方が起きたX染色体をもつ配偶子による子供です。2回交叉が起きることを二重交叉といいます。この表現型の組み合わせをもつ子供は全体の0.1%でした。
では、これらの実験結果をもとにscとecとcvの位置関係を染色体地図に表してみましょう。
sc-es間は9.0+0.1で9.1センチモルガンとなります。同じように計算して、ec-cv間は10.6センチモルガンとなります。
この結果からわかるように、二重交叉はとても起こりにくいものです。二重交叉が起こる期待値は単純に計算すると、9.1%✕10.6%で0.1%です。しかし、実際には、0.01%しか起こっていません。
このように1つの交叉が起こると、他の交叉が起きる確率を減少させる傾向は干渉と呼ばれます。また、実際に起きた二重交叉を、それが起こる期待値で割ったものは併発率(coincidence)と呼ばれます。この実験において、二重交叉の併発率は0.1となります。