男の人って、女の人よりもハゲているイメージありますよね!
これは伴性遺伝に関係があります!
父から息子へ、母から娘へと性別が同じ子孫にのみ形質が伝わることを伴性遺伝といいます。性に伴って起こる遺伝という意味です。一般に、伴性遺伝は女性より男性のほうがその影響を受けやすいのです。1
なぜ伴性遺伝が起こるのか
多くの生物はXXという性染色体の組み合わせを持っていたらメスになります。そして、XYという性染色体の組み合わせを持っていたらオスになります。ヒトもこの法則に従います。
メスの場合、X染色体の1本が普通とは異なっていても、もう1本のX染色体が正常ならば、その形質が現れます。しかし、オスの場合、X染色体を1本しか持たないので、その1本しかないX染色体上の遺伝子が普通とは異なっていたら(たとえば、血友病の遺伝子があったら)、その形質が発現してしまうのです。
なので、女性に比べて男性のほうが伴性遺伝の影響を受けやすいのです。オスがX染色体を1本しかもたないことはヘミ接合と呼ばれます。このヘミ接合のために、女性よりも男性のほうが伴性遺伝の影響を受けやすいのです。
伴性遺伝の発見
1910年頃、ショウジョウバエで遺伝の研究を行っていたT. H. モーガンは、ショウジョウバエの目の色に関する突然変異を発見しました。通常、ショウジョウバエは赤い眼をしているのですが、突然変異をしたショウジョウバエは白い眼だったのです。
モーガンはこの遺伝子を研究し、赤眼は白眼に対して優性であること、そして、この形質を決定する遺伝子はX染色体上にあり、Y染色体には含まれていないように遺伝することに気づきました。
実験の結果は以下の通りです。
ホモ接合の赤眼のメスと白眼のオスを交配すると、子はすべて赤眼になりました。そこで、白眼のメスと赤眼のオスを掛け合わせると、次代のオスはすべて白眼になりました。またヘテロ接合の赤眼のメスに赤眼のオスを交配すると、次代のオスの半分が白眼でした。
この実験結果は、目の色の遺伝子がX染色体上にあるということを意味しています。
ヒトの伴性遺伝 – 血友病と色覚異常(色盲)
ヒトにおける伴性遺伝として代表的なものは血友病と色覚異常です。
ヴィクトリア女王によってヨーロッパ王家に広がった血友病
血友病は正常な血液の凝固に必要なタンパク質がないことによる病気です。
イギリス王家のヴィクトリア女王の遺伝子が突然変異をしたことにより、他国に嫁いでいった彼女の娘たちも血友病の遺伝子を保有しており、ヨーロッパの王家の中で血友病が広がり、多くの王族の男性が血友病に苦しみました。
ヴィクトリア女王自身はヘテロ接合の保因者であったことから、血友病ではありませんでした。しかし、彼女の息子の1人が血友病であり、また、病気になった人の家系図を見ることで、娘の2人は血友病遺伝子の保因者だと考えられています。
この2人によって、血友病の遺伝子はスペイン・ブルボン朝やロシア・ロマノフ王家に伝えられてしまいました。
色覚異常(色盲)
色覚異常にはいくつか種類がありますが、伴性遺伝するのは赤色と緑色が混同して見えてしまうものです。
日本では男子の約5パーセント、女子の約0.2パーセントが色覚異常だと言われ、圧倒的に男性に多いということがわかります。色覚異常の人は日常生活に異常はありません。しかし、あなたが赤い服を着ていても、色覚異常の人にとっては別の色に見えているということです。
昆虫や他の動物はヒトとは異なるスペクトラムの色を感知できるものが多く、わたしたちが見ているある特定の色は、色覚異常の人には、または他の生物には、全く違う色に見えているものです。興味深いですね。色って何なのでしょう。
Y染色体遺伝
Y染色体はオスしか持ちません。なので、Y染色体上の遺伝子による形質が現れるのも男性だけです。なので、伴性遺伝と同じようなことが起こりえます。
Y染色体の遺伝子を男性が持っていると、彼の息子は100%同じ遺伝子を持つことになります。そして、彼の娘は100%その遺伝子を受け継ぐことはありません。しかし、ほとんどの種で、Y染色体上にはあまり遺伝子が乗っていないので、Y染色体遺伝による影響はあまり生じません。
Y染色体はX染色体に比べてとても小さく、Y染色体にはヒトが生きるのに必須の機能を司る遺伝子はありません。
もしY染色体がそのような機能を持っていたら、Y染色体を持たない女性(世界中の女性全員)は生きていられないということになります。そんなことはありませんよね。このことからもY染色体遺伝があまり起こらないことが示されます。
組織適合抗原の遺伝子
Y染色体遺伝はあまり起こらないのですが、ヒトでよく調べられている遺伝子に組織適合抗原があります。これは、組織移植の拒否反応に関係した遺伝子です。
ハゲはなぜ男性で起こりやすいのか
ハゲは大部分が男性に見られるものですが、完全な伴性遺伝であるとはいえません。実際、ハゲの遺伝子は常染色体にあります。しかし、このハゲを起こさせる遺伝子は男性ホルモンがあるときだけ働きます。言いかえると、ハゲを起こす遺伝子の浸透度は男性では100%で女性では0%なのです。
また、ハゲは男性ホルモンに関する遺伝子、毛穴の数を決める遺伝子、髪の太さを決める遺伝子——とたくさんの遺伝子について考えなければなりません。なので、ハゲに関しては、一概には「この遺伝子があるから薄毛」などとは言うことは難しいのです。
このような、一方の性においてのみ表現される形質は限性(sex-limited)と呼ばれます。男性のみにヒゲが生えるのも限性です。ちなみにハゲを起こさせる遺伝子は優性なので、ハゲた男性の息子は1/2以上の確率でハゲになってしまいます。
しかし、遺伝学は21世紀以降、急速に発展しています。ハゲや病気をはじめとする、ありがたくはない遺伝因子はもちろん、好ましい遺伝子についてもたくさんわかってきています。遅かれ早かれ、ハゲる人がいなくなる未来も来るかもしれません。今後の研究のアップデートに期待ですね。
追記・参考文献
- 伴性(sex-linked)はX連鎖(X-linked)と呼ばれることもあります。