ミツバチの性の決定 – ミツバチのオスに「父親はいないが祖父はいる」理由

ミツバチの子どもがオスになるか、メスになるか決まる仕組みは、ヒトやその他の哺乳類とはずいぶん違い、また他の昆虫とも異なっています。そのため、ミツバチのオスには「父親はいないが祖父はいる」という人間から考えると奇妙な状況が存在してしまうのです。

  1. 受精卵はすべてオスになるミツバチ
  2. 染色体が2本あるオスは殺される
      1. 追記・参考文献

未受精卵はすべてオスになるミツバチ

通常、ヒトを含め、多くの哺乳類はY染色体があるときにオスになります。染色体とはDNAがぐるぐるまきになっている「DNAの束」のようなものです。ヒトは通常、DNAを46本持っていて、そのうちの2本が女性になるか、男性になるかを決定する「性染色体」です。

性染色体には2種類があり、1つはX染色体、もうひとつはY染色体です。X染色体を2本もつ「XX」の組み合わせのときに女性になり、X染色体を1本、Y染色体を1本もつ「XY」のときには男性になります。

なお、「YY」の組み合わせをもつヒトは絶対にいません。下の図を見ると、YYの組み合わせが生じないことがわかると思います。極めて稀に「YY」の組み合わせが生じることがあるのですが、成長することができず、胎児のときに死んでしまいます。

しかし、ミツバチやアリの仲間である膜翅目ではこれとは異なる、変わった性の決定がなされます。膜翅目の子どもは、未受精卵はすべて雄となり、受精卵が雌となるのです。1

つまり、ミツバチのメスは染色体を母と父の2人から受け取りますが、オスは母親からのみ染色体を受け取ります。そのため、ミツバチの雄には「父親はいないが祖父はいる」という不思議な現象が起きるのです。

染色体が2本あるオスは殺される

しかし、ヒトでも「YY」の染色体の組み合わせが生じるように、ミツバチにも極めて稀に染色体を2本もつオスが見つかることがあります。2

しかし、そのオスは生きながらえることはありません。すぐに殺されてしまうからです。まず、女王バチが染色体が2本あるオスの幼虫をメスと思ってしまいます。そのため、オスであるというのに、働きバチになるための部屋に入れます。ミツバチの働きバチはすべてメスです。なので、今度はメスの働きバチが、働き蜂の部屋にいるべきではないオスの幼虫が紛れ込んでいることに気づいて、オスを殺してしまうからです。

追記・参考文献

  1. 実際は、受精によって雌という性が決定されるのではなく、複相であることで性が決定されています。単相では雄、複相では雌になります。
  2. これは、性決定遺伝子がホモ接合であるために生じます。ヘテロ接合の卵は雌となり、ホモ接合は雄になります。ホモ接合ということは単相であること同一であるためオスになるということです。しかし、自然集団では対立遺伝子がとても多いので、ホモ接合の生じる確率はほとんどありません。なので、実験用として人為的に極度の近親交配が行われる際にだけ、このようなホモ接合の雄が生まれます。近親交配になると致死遺伝子もホモ接合になってしまう場合が多いので、健康な個体ではないと考えられます。
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