タンパク質をしっかり摂りなさい、って言われることがありますね!
では、なにをしっかり食べればタンパク質が摂取できるでしょう?
肉とか魚かな?
そうですね! ヒトも含め、生物のからだの大部分はタンパク質でできています。
そして、そのタンパク質を作るために行われるのが「転写」と「翻訳」です。
転写・翻訳とは何か
転写と翻訳は、生物のからだの大部分を占める物質である「タンパク質」をつくる過程ことです。
DNAには、つくられるべきタンパク質の情報(遺伝情報)が書かれています。
つまり「○○なタンパク質をつくれ」というタンパク質の「設計書」がDNAなのですが、DNAの設計書はそのままでは使えません。なので、いったん書き換えられる(転写される)必要があるのです。これが「転写」です。
そして、転写によって書き換えられた情報を使って、実際にタンパク質をつくるのが「翻訳」です。
タンパク質がつくられるための、第1ステップが「転写」、第2ステップが「翻訳」ということです。
転写とは
転写とは、DNAを鋳型にして、RNAがつくられることです。転写が行われるのは細胞核の中です。
転写はタンパク質をつくるのに必要な「道具」作り
転写はタンパク質をつくるための準備の段階です。転写では、タンパク質をつくるのに必要な「道具」がつくられます。
この道具が「RNA」という物質です。名前からも想像できるように、DNAとRNAはとてもよく似た物質です。RNAがなくてはタンパク質がつくられません。
転写でつくられるRNAには2種類があります。メッセンジャーRNA(mRNA)とトランスファーRNA(tRNA)です。
実際は、他の種類のRNAも転写でつくられるのですが、高校生は2種類だけおさえておけばOKです!
転写が必要な理由
RNAなんていう面倒な段階を踏まなくても、DNAから直接タンパク質がつくれれば楽ですよね。
しかし、工作をするためにのこぎりや金槌が必要なように、タンパク質をつくるために必要な「道具」をそろえなくてはなりません。これが転写です。
では、具体的に転写が必要な理由を2つ挙げておきます。
DNAは核の中にある
DNAはずっと核の中に入っています。
核の中は狭くて、タンパク質をつくる場所がありませんし、タンパク質をつくるのに必要な細胞小器官に「リボソーム」という器官があるのですが、これは核の中には入れません。
また、DNAの情報は膨大です。しかし、細胞によって必要な「設計書」は限られていますよね。目の細胞を作るタンパク質が必要なのに、胃の細胞を作る部分の説明書はいりません。
なので、「○○というタンパク質をつくれ」と命令が書かれたDNAの一部だけが「転写」され、核の外に出て、タンパク質がつくられます。
DNAの遺伝情報は読み取れない
DNAもRNAもどちらも核酸という物質で、とてもよく似た構造をしています。しかし、異なる点もいくつかあります。
タンパク質の翻訳で必要なのは、DNAの「○○なタンパク質をつくれ!」という設計図の部分です。しかし、タンパク質をつくる作業員は「DNA語」が読めません。
そのため、作業員が読める言葉に書き直される必要があります。後に登場しますが、この作業員はtRNAという名前です。なので、「DNA語」で書かれている設計書は「RNA語」に書き直されなくてはならないのです。
転写の流れ
上の図は、DNAがRNAに転写されるの様子のイラストです。以下の順序で転写が行われます。
① RNAに書き写される部分のDNAの二重らせんの鎖がほどかれる。
② DNA鎖の片方が鋳型となり、対応する塩基をもつRNAヌクレオチドが結合していく。
③ 一本鎖のRNA分子(転写産物/transcript)ができる。
転写でつくられるRNAの種類
メッセンジャーRNA (messenger RNA / mRNA)
メッセンジャーRNAは、DNAから遺伝情報を運び、タンパク質の合成をする際の鋳型となります。
トランスファーRNA (transfer RNA / tRNA)
トランスファーRNAは、特定のアミノ酸と結びついて、それを運搬(トランスファー)するRNAです。
イラストの上に書かれている英語3文字はアミノ酸の略表記です。例えば「THR」はトレオニンというアミノ酸のことで、「ASN」はアスパラギン酸のことです。
実際にはもう1種類転写によってつくられるリボソームRNAというものがあるのですが、高校生物では登場しないので割愛します。知りたい人は以下の記事を参考にしてください。
翻訳とは
転写によってタンパク質をつくるのに必要な「道具」が必要なので、実際にタンパク質をつくる作業がはじまります。このタンパク質をつくる過程が「翻訳」です。
転写は核の内部で行われましたが、転写が終わるとつくられたメッセンジャーRNAやトランスファーRNAは核の外へ出ていきます。
そして、核の外の部分にある「リボソーム」という細胞小器官で翻訳が行われます。
タンパク質の構造
タンパク質の作り方を見ていくまえに、まずはタンパク質の構造について知っていなくてはなりませんので、簡単に説明していきます。
タンパク質はアミノ酸の連なり
タンパク質はアミノ酸が連なってできています。
タンパク質の構造は、上の図のように「一次構造」「二次構造」「三次構造」「四次構造」に分けられます。このときの、「一次」「二次」というのは、一次元、二次元…ということではなく、「一次試験」「二次試験」というときのような第一、第二…という意味です。
タンパク質の一番最初の構造である一次構造は、アミノ酸が並んでいる状態です。上の図の「一次構造」において、ビーズのように並んでいるのがアミノ酸です。このようにたくさんのアミノ酸が連なったものは「ポリペプチド」と呼ばれます。
ポリペプチドが、二次構造、三次構造…と進むにつれ、分子同士が結合したりアミノ酸の鎖が折りたたまれたりして、最終的に「タンパク質」となります。
このポリペプチドをつくる、つまりアミノ酸を一列に並べてつなげていくのが「翻訳」という作業です。
翻訳の流れ
タンパク質の情報が書かれているのはメッセンジャーRNAでした。しかし、メッセンジャーRNA自身はどっしりと構えているだけで、実際に翻訳の作業をするのはトランスファーRNAです。
tRNAは特定のアミノ酸と結びつく
tRNAはアミノ酸を運ぶ(トランスファー)役目のあるRNAでしたね。
tRNAはどのアミノ酸とでも結合して運べるかというとそうではありません。特定のアミノ酸としか結合ができないのです。
tRNAは3つの塩基をもっています。そして、tRNAがどの塩基をもっているかによって、どのアミノ酸と結合できるかが決まるのです。
アミノ酸は20種類しかありませんが、tRNAは40種類以上もあります。これは、異なるアンチコドンをもつ複数のtRNAが同じアミノ酸に結合するからです。
例えば、「UCU」「UCC」「UCA」「UCG」「AGU」「AGC」の塩基をもつtRNAはすべてセリンというアミノ酸と結合します。
このような3つの塩基は「アンチコドン」と呼ばれます。
mRNAのコドン・tRNAのアンチコドン
tRNAの3つの塩基は「アンチコドン」ですが、なぜ「アンチ」というのでしょうか。アンチとは「反」という意味です。例えば、「アンチトラスト」は「反トラスト」ともいいますね。「反」があるということは、「反」ではないコドンも存在するということです。
単なる「コドン」はmRNAの3つの塩基のことです。ただし、mRNAは塩基が連なった鎖ですので、3つずつ区切って、それを1セットとして「コドン」と呼びます。
このmRNAのコドンと反対になっているため、tRNAがもつ3つの塩基は「アンチコドン」と呼ばれます。
ここでいう反対とは「相補的」であるという意味です。
RNAの塩基はチミン(T)ではなくウラシル(U)
DNAで相補的となるのは、アデニンとチミン、グアニンとシトシンの組み合わせ、つまり「A – T」「G – C」でした。
しかし、RNAにおいては、チミンの代わりにウラシルが使われます。なので、「A – T」ではなく、「A – U」が相補的塩基対となります。
翻訳はリボソームで行われる
ここまで読んだ皆さんは、どのようにして翻訳が行われるかは予想ができているのではないでしょうか。
鋳型となるmRNAにアミノ酸をもったtRNAが結合し、そしてアミノ酸どうしも結合することでポリペプチド、つまりタンパク質の一次構造ができあがります。
しかし、1つ注意してもらいたいのは、翻訳は細胞の中をただよっているtRNAが勝手にmRNAに結びついていくのではなく、リボソームという細胞小器官によって行われるということです。
リボソームが1コドンずつ動いていく
リボソームはmRNAにくっついていています。
リボソームが存在する位置のmRNAの塩基とtRNAが相補的に結合したら、tRNAはもっていたアミノ酸をポリペプチド鎖に加えます。
そしたら、リボソームはtRNAを追い払い、mRNAの3塩基分、つまり1コドンの分だけ、少し動きます。
そして、また次のコドンに対応するアンチコドンをもったtRNAがやってきて、ポリペプチドに新たにアミノ酸を追加します。
このように、tRNAがやってきてアミノ酸付け加え、去っていく、という行程が繰り返されることによってポリペプチド鎖が伸びていきます。
「開始」を指令するコドンから「停止」を指令するコドンまでリボソームは動いていきます。そして、停止のコドンが現れると、ポリペプチド鎖はリボソームから離れます。
セントラルドグマ
このように、「DNA→RNA→タンパク質」という経路で遺伝情報がタンパク質に翻訳されるというのは「セントラルドグマ」と呼ばれます。
これは二重らせん構造を発見したフランシス・クリックによって提唱された言葉です。
「ドグマ」とは、宗教においての「教え」のことで、科学者であるクリックがこのような言葉を選んだのはとても面白いエピソードです。これについては、セントラルドグマの記事で詳しく書いています。