細菌の遺伝的組換え – レーダーバーグの大腸菌の研究とF因子

細菌遺伝子の受け渡し

大腸菌は原核生物の一種です。レーダーバーグという遺伝学者は、大腸菌で交叉が起こらずとも、遺伝的組換えが起こることを示しました。彼は以下のような実験を行いました。

組換えの発見 – 細菌は有性生殖をせずに遺伝的組換えを行う

彼はまず、下にあるような2つの系統の栄養要求株を準備し、最少培地に植えました。

・ ロイシンを必要とするが、メチオニンは必要としない系統(l⁻m⁺)
・ メチオニンを必要とするが、ロイシンは必要としない系統(l⁺m⁻)

最少培地にはロイシンもメチオニンも含まれていません。そのため、生き残った大腸菌はこの2つのどちらも必要としないことになります。

レーダーバーグが用いた最少培地で育った100万もの大腸菌の中で1個の大腸菌が生き延び、コロニーをつくりました。つまりこの大腸菌はl⁺m⁺ということになります。このl⁺m⁺が得られた理由には、いくつかの可能性が考えられます。

① l⁻m⁺系統の個体で、l⁻からl⁺への突然変異が起こった
② l⁺m⁻系統の個体で、m⁻からm⁺への突然変異が起こった
③ 遺伝的組換えが起こった

答えは③です。大腸菌同士で遺伝子が交換されたため、l⁺m⁺という系統が生まれることができたのです。その証拠に、l⁺m⁻だけ、l⁻m⁺だけ、と別々に育成させたら、l⁺m⁺の系統は生じませんでした。

なので、突然変異が起こった可能性が除外されるのですが、確率的にも突然変異はそうそう起こらないものです。そもそも、最低培地で培養することができる大腸菌のl⁺m⁻やl⁻m⁺といった系統は、それ自体が突然変異体です。その突然変異体で、またしても突然変異が起こるという可能性は非常に低くなります。

その数年後、実際に細菌が遺伝子の組換えが起こっている様子が確認されました。この観察には、細くて運動力のある系統と、丸くて運動力のない系統の2種類を混ぜるやり方が有用です。このような2種類が結合しているときにはオタマジャクシのように見え、かつ動きます。このような個体を見つけたら、それを捕まえて、その個体から組換えを起こした子孫が生じることが観察できます。

F因子の移行 – F⁺細胞からF⁻細胞へのDNAの移行

大腸菌には性はありませんが、性のような交配が行える型(交配型)が存在します。F因子というものがあり、これは環状のDNA断片です。このF因子にはF⁺とF⁻の2種類があります。F⁺は感染性で、F⁺とF⁻の細胞が接触すると、F⁻はF⁺の細胞に変わります。

 F因子の移行(オレンジの物体は染色体)

F因子はDNAなので自己複製を行います。そして、そのDNAには遺伝子があり、その中の1つは細菌の細胞にピリと呼ばれる線毛を作らせる遺伝子です。このピリがF⁻の細胞に付着し、つながった細胞同士をつなぐ管が作られます。

そして、複製された線状のDNAが管を通って、F⁻の細胞へと移動します。F⁻に異動した線状DNAは、そこで相補鎖を形成し、環状DNAとなります。

F因子は細菌の染色体に組み込まれることもあり、その際は、細菌の染色体の一部がF⁻細胞へと組み込まれます。このような細菌はHfrと呼ばれます。Hfrについては別記事をご参照ください。

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