岡崎フラグメントについてわかりやすく解説!

岡崎フラグメントは、DNAが合成されるときに作られる小さなDNA断片(フラグメント/fragment)のことです。岡崎フラグメントのDNAの塩基数は約100塩基です。

岡崎フラグメントはDNA合成が連続的に行われず、DNAが細切れになってしまうためにできてしまいます。このDNA断片を発見した日本の生物学者・岡崎令治の名前から岡崎フラグメントと名付けられました。

では、なぜ岡崎フラグメントができてしまうでしょうか。これには、DNAの構造や、DNAポリメラーゼという酵素の性質が関わっています。

この記事では、この岡崎フラグメントのでき方やDNAポリメラーゼの性質について、できるだけわかりやすく解説してみました!

DNAポリメラーゼを使ったDNA複製の「欠点」

DNAが合成・複製されるためにはいくつかの酵素が必要です。その酵素のひとつであるDNAポリメラーゼが岡崎フラグメントができる理由に大きく関わっています。

DNAの方向 – 3’末端と5’末端

DNAは二重らせん構造なので、左右や上下など関係ないように思われますが、実際はそうではなく、DNAには向きがあります。DNAの方向は、ヌクレオチドのデオキシリボースの炭素原子の配列によって決まります。

ヌクレオチドは、塩基、デオキシリボース、リン酸の3つの分子から構成されます。デオキシリボースは五炭糖という糖の一種です。個の素原子を含むなので、五炭糖と呼ばれています。

DNAの五炭糖の炭素原子の配列

ヌクレオチドの糖の炭素には、どの炭素を指しているかわかるように「3’」や「5’」というようにダッシュをつけた番号振られており「3ダッシュの炭素」などと呼ばれます。

糖の1’は塩基につながっており、5’の炭素原子と3’の炭素原子はリン酸基につながっています。3’の炭素はデオキシリボースの五角形の中にありますが、5’の炭素は五角形からちょっとはみ出したところにあります。

3’の炭素にも5’の炭素にもリン酸基が結合するのですが、デオキシリボースがこのような構造をしているため、左右対称にはなっていないのです。ヌクレオチドがこのような構造をしているために、DNAの方向があるのです。

3’末端から5’末端の方向へ働くDNAポリメラーゼはない

このようにDNAには方向性があるのですが、DNAの複製は必ず5’末端から3’末端へ複製します。なぜかというと、DNAを合成する働きを持つ酵素であるDNAポリメラーゼ(DNA合成酵素)がこの方向でしか働かないからです。

DNA合成にはいくつもの酵素が必要なのですが、DNAポリメラーゼもその中のひとつで、これがなくてはDNAは合成されません。

DNAポリメラーゼが発見されたとき、それが5’→3’の方向へのみ働くとわかりました。そして、そのうち3’→5’の方向に働くポリメラーゼも発見されるだろうと思われていました。なぜならば、下の図のように、二本鎖のDNAが開いて、そこにDNAポリメラーゼが3’末端からも5’末端からもヌクレオチドを付加していくことが自然だと思われたからです。

もし3’から5’に働くDNAポリメラーゼがあった場合

そのため、3’→5’方向に働くDNAポリメラーゼを見つける研究が盛んに行われました。しかし、結局そのような酵素は見つかりませんでした。

しかし、3’→5’の方向にDNAを合成するDNAポリメラーゼがなくとも、DNAは新しく合成されます。この方法に岡崎フラグメントが関わっています。

なぜDNAポリメラーゼは3’→5’の方向には働かないかという理由については、下の記事をご覧ください!

DNAポリメラーゼは酵素(タンパク質)の一種です。ポリメラーゼとは、核酸(DNAとRNA)の合成を触媒する酵素のことです。よって、DNAを複製するタンパク質はDNAポリメラーゼで、RNAを合成するタンパク質はRNAポリメラーゼと呼ばれます。...

3’末端から5’末端へは岡崎フラグメントを作って合成される

3’→5’の方向に働くDNAポリメラーゼがなくてもDNAの合成を可能にする方法こそが岡崎フラグメントです。

5’→3’方向に働くDNAポリメラーゼよる複製

図の上の5’→3’の方向にはDNAポリメラーゼがしっかりと働いて、連続的に複製が行われます。しかし、問題は下の3’→5’方向ですね。そこで登場するのがRNAポリメラーゼです。

DNAポリメラーゼがDNAの合成を行う酵素であるように、RNAポリメラーゼはRNAを合成する酵素です。DNAとRNAはよく似た分子なのですが、DNAが二本鎖であるのに対してRNAは一本鎖だったりといくつか異なる特徴があります。

それと同じように、DNAポリメラーゼとRNAポリメラーゼにもいくつか違いがあります。ここでポイントとなるのが、プライマーが必要か否かです。プライマーとは、合成がはじまる場所を示す部位のことです。そして、DNAポリメラーゼにはプライマー必要ですが、RNAポリメラーゼには必要ではないのです。

この事実がうまく利用され、3’→5’へとDNAが合成されます。

岡崎フラグメントが修復ポリメラーゼとDNAリガーゼによって1本鎖のDNAに結合する様子

まずプライマーが必要ないRNAポリメラーゼによって小さなRNA断片が合成されます。そして、そのRNAの部分をプライマーとして、DNAポリメラーゼによってDNAの合成が始まります。

そして、DNAの領域が前のRNAの部分に追いつくと、RNA断片のままではいけないので、DNAに修復されます。DNAの置き換えを行うのは修復ポリメラーゼと呼ばれるDNAポリメラーゼの一種の酵素です。

こうして、プライマーとして機能したRNA部分はDNAに変換されますが、このままではまだDNAは断片のまま、つまり岡崎フラグメントのままです。これではいけないので、DNA同士の切れ目が接着されて一続きにされます。DNAを接着させる働きを持つ酵素はDNAリガーゼです。

このようにして、小さな断片であった岡崎フラグメントが一続きのDNAとなり、最終的に二重らせん構造を形成するのです。

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