染色体の本数に異常が起きてしまうと深刻な病気になってしまいます。トリソミーになる常染色体は3つ知られていて、13番と18番と21番です。21番がトリソミーになるのはダウン症候群で、13番と18¥番の場合、それぞれ13トリソミー、18トリソミーと呼ばれています。それ以外の染色体が3本になると、胚発生の段階で致死してしまいます。
X染色体は12番染色体と同じくらいの大きさで、たくさんの遺伝子を含んでいます。しかし、XXX型の女性は正常に成長することができます。
なぜX染色体は多少多くても正常に生きることができるのに対し、常染色体がトリソミーまたは モノソミー になってしまうと、その個体はほとんどの場合、生きることができないのでしょうか。
バール体(染色粒体)
女性の中間期の核には染色粒体、または発見者の名前を冠してバール体と呼ばれる物体があります。これは、男性にはありません。そして、このときのバール体の数は「X染色体の数 ー 1」になります。つまり、通常の2本のX染色体をもっている女性の細胞はバール体を1つ、XXXの女性はバール体を2つ生じさせることになります。
このバール体の正体は不活性化されたX染色体です。つまり、X染色体が何本あっても、1つの細胞で活性化しているX染色体は1本だけなのです。なので、XXXXYといった表現型でも生きられることになります。
胚発生初期におけるX染色体の不活性化
X染色体は大きな染色体なので、その2つのどちらもが活性化していたら女性にとって有害になってしまうようです。それを避けるために、胚発生の初期に、それぞれの細胞でX染色体のうちの1本が不活性になります。それぞれの細胞というところがポイントです。
三毛猫(体毛が三色のネコ)はこのX染色体の不活性化によって生じます!
女性は母親から1本、父親から1本の計2本のX染色体をもっていますが、このどちらが不活性になるかは完全に偶然だと考えられています。つまり、母親からのX染色体が不活性化される確率は1/2、父親からのX染色体が不活性化される確率も1/2です。
そして、一度、不活性化が決定されると、そのX染色体は永久に不活性化されてしまいます。なので、たとえば、母方からのX染色体が不活性化した細胞が細胞分裂して、新しい細胞が生じたとしても、その細胞も母方からのX染色体が不活性化しています。
三毛猫がメスしかいない理由
そのため、メスの体のある部分では母方のX染色体だけが活性化していて、同じ個体の体の別の部分では父方のX染色体だけが活性しています。
3つの色の毛をもつ三毛猫の毛の色が、目の部分、鼻の部分、シッポの部分、右手の部分——とそれぞれの色が異なるのは、身体のパーツによって「毛を黒にする遺伝子」「毛を茶色にする遺伝子」「毛を白にする遺伝子」と、X染色体上にある色を発現させる遺伝子がそれぞれ異なるからです。
ヘテロ接合の血友病遺伝子を持っている女性が正常な理由
血友病の遺伝子はX染色体上にあります。そのため血友病は伴性遺伝をし、女性より男性のほうが血友病になりやすいのです。
血友病の遺伝子をヘテロ接合でもつの女性は、正常な細胞を50%、異常な細胞を50%もっています。異常な細胞はあっても、表現型としては正常で、血友病ではありません。
この理由は、血友病に対抗する グロブリン である抗血友病グロブリンをわずかしか必要としないからです。なので、体の半分の細胞で抗血友病グロブリンを生成できれば十分なのです。
X染色体が不活性化される理由
X染色体の不活性化がされる理由は遺伝子量が補正されるからであると考えられています。この遺伝子量補正は両性で有効な遺伝子量が同一であるように調節する作用のことです。
X染色体を2本もつ女性は男性の二倍のX染色体をもっていることになります。しかし、同じ種においては、染色体上の遺伝子は、男性と女性が同じであるほうがよいと考えられます。このため、女性のX染色体を1本だけ活性化させておくことで、実質、男性も女性も同じ遺伝子をもつことができます。
この遺伝子量補正がX染色体の不活性化される理由だと考えられていますが、決定的な証拠はありません。X染色体の不活性化には謎の部分も多く、これからの研究が待たれる部分でもあります。
X染色体が不活性化される仕組み
X染色体が不活性化する仕組みの詳細は、はっきりとはわかっていません。しかし、不活性化されたX染色体が働かない理由はわかっています。
普通、細胞の休止期には染色体は糸状になっています。しかし、不活性化されたX染色体は凝縮したままなのです。なので、他の細胞と調和がとれず、休止期に正常な機能を果たすことができないと考えられています。