RNAとは – DNAとの違い、mRNA・tRNA・rRNAのはたらき

この記事では、生物学について全く知識のない人でもRNAについて理解できるように、わかりやすくまとめてみました。RNAの構造、DNAとRNAの違い、mRNA、tRNA、rRNAといった様々なRNAについて解説しています。

DNA ≠ 遺伝子

「DNA」と「遺伝子」を同じ意味で使っている人は多いのではないでしょうか。テレビや新聞で有識者ではない人によって「DNA」や「遺伝子」という言葉がたくさん使われているため、この2つの言葉を混同している人がたくさんいます。

しかし、DNAと遺伝子は違う意味を持っています。生物学者がこれらの言葉を使うときは、それぞれ厳密な意味で使っており、DNAという言葉を遺伝子に置き換えてはいけないことがほとんどです。

DNAとは

DNAと遺伝子はどう違うのかを、まず確認しましょう!

DNAは「物質名」です。なので、「水素」や「酸素」や「鉄」などと同じように「DNA」も物質の名前です。

なぜ、他の物質とは違ってアルファベットで表されているかというと、DNAが略称だからです。DNAの正式名称は「デオキシリボ核酸」です。デオキシリボ核酸は「deoxyribonucleic acid」の日本語訳で、カタカナで表すと「デオキシライボヌクレイック・アシッド」と発音します。

会話の中で「デオキシライボヌクレイック・アシッドは〜」と言うのはとても面倒なので、略して「DNA」と呼ばれるようになり、日本語でも英語の略称のほうが広まっているというわけです。

そのため、DNAを「鉄」や「エタノール」のような物質名とは異なるものだと思ってしまいがちになりますが、DNAは物質の名称です。

遺伝子とは

では次に、「遺伝子」という言葉について考えていきましょう!

遺伝子は「遺伝する特徴を発現させる単位」という意味です。もう少しわかりやすく説明すると、親から子へ伝わる情報が含まれていて、その情報を元に、「目の色」や「身長」や「性格」といった生物の特徴を形作るはたらきを持つ物質の1つのまとまり、ということです。1

「ある特徴を遺伝させるためにひつような遺伝物質のまとまり」が遺伝子です。DNAには遺伝のはたらきがありますので、DNAは遺伝子になることができます。しかし、私たちヒトのDNAの98%は遺伝のはたらきを持っていません。なので、ヒトのDNAの98%は遺伝子ではないのです。

また、RNAにも遺伝するはたらきがあります。なのでRNAも遺伝子になることができます。一部の生物またはウイルスの遺伝物質はRNAです。また、初期の地球上生命が持っていた遺伝物質はDNAではなくRNAであった、という説があるのですが、これは生物学者の中で最も支持されている理論です(RNAワールド説)。

DNAは「紙」のようなもので、遺伝子は「紙に書かれた情報」だと思って大丈夫です。白紙では遺伝しても意味がありませんね。DNAが遺伝子になることではじめて「遺伝物質」になるのです。

まず簡単にDNAと遺伝子の違いについて説明しました。また、「ゲノム」や「染色体」もDNAや遺伝子とは異なる意味があります。DNAや遺伝子についてもっと詳しく知りたい方は別記事を参照ください。

DNAもRNAも核酸という物質

DNAもRNAもどちらも「核酸」という物質です。なので、DNAとRNAはとてもよく似ています。核酸にはDNAとRNA以外にはありませんので、DNAとRNAは兄弟のようなものだと思ってもらってOKです。

しかし、似ている兄弟でもしっかり見分けがつきますよね。DNAとRNAもしっかりと見分けがつきます。

DNAは「デオキシリボ核酸」を略したものでしたね。一方、RNAは「リボ核酸(ribonucleic acid)の略です。RNAのほうには「デオキシ」という言葉がありませんね。この「デオキシ」という部分がDNAとRNAを分ける重大な鍵なのです。

しかし、「デオキシ」の重要性を理解するためには、核酸の構造について知っておかねばなりません。

核酸とは

核酸とは「塩基」「糖」「リン酸」という3つの物質から作られた化合物のことです。「塩基」「糖」「リン酸」が1つずつつながったものにも名前があって、これは「ヌクレオチド」といいます。

DNAのヌクレオチド

このヌクレオチドが規則的に並んで集まって大きな化合物になったものが核酸です。ヌクレオチドをパズルのピースのようなものだと思ってください。ヌクレオチドというピースがたくさん結合していき、核酸という物質になります。

ヌクレオチドの「パズルピース」が集まってできたDNAの一部

ヌクレオチドとヌクレオチドを結合させるのは「リン酸」です。リン酸が2つのヌクレオチドの糖とくっつくことで、ヌクレオチドどうしが結合し、それがいくつも連なっていって、ヌクレオチドの長い鎖がつくられていったものが核酸です。

DNAもRNAもどちらも核酸であり、どちらも大きな化合物です。核酸のような物質のことを「高分子の有機化合物」といったりもします。高分子とは「分子量の大きな分子」のことで、有機化合物とは「炭素を含む化合物」のことです。

DNAとRNAの構成要素の違い①「糖」

ヌクレオチドは「塩基」「糖」「リン酸」が合わさってできた「パズルのピース」です。DNAもRNAもどちらもこのヌクレオチドがたくさん集まってできた物質です。

「リン酸」は1種類しかありません。DNAの構成要素であるリン酸とRNAの構成要素であるリン酸は同じものです。

しかし、糖には2種類があります。「デオキシリボース」と「リボース」です。デオキシリボースはDNAの構成要素で、リボースはRNAの構成要素です。

DNAとRNAの構成要素の違い②「塩基」

DNAを構成する塩基には4種類があります。アデニン(Adenine)・グアニン(Guanine)・チミン(Thymine)・シトシン(Cytosine)の4つです。長いので、やはりこれも略されて、A、G、T、Cと呼ばれることが多いです。

RNAを構成する塩基にも4種類があります。RNAでも、アデニン・グアニン・シトシンの3つは使われます。しかし、DNAとは違ってチミンは使われません。代わりに使われるのが「ウラシル(uracil)」です。

デオキシリボースには酸素が欠けている

ここでデオキシリボースの「デオキシ」という意味について知っておきましょう。デオキシとは「酸素がない」という意味です。酸素がないとはどういうことでしょうか。

先ほど、「有機化合物」とは「炭素を含む化合物」のことだと説明しました。DNAもRNAも炭素を含んでいます。ここでいう「炭素」とは炭素原子(C)のことです。DNAにも酸素原子は含まれているのですが、RNAの糖であるリボースと比べて、DNAの糖であるデオキシリボースには1つ酸素原子が少ないのです。

リボースの末端はOHとなっていますが、デオキシリボースの末端は酸素がなくなってHとなっています。ちなみに、OHの原子の組み合わせのことは「ヒドロキシ基」または「水酸基」といいます。一方、Hだけの末端は「水素基」ということがあります。

ヒドロキシ基(OH)は水と反応しやすく不安定な状態です。しかし、水素基(H)は安定しています。生命の情報を担う物質は安定していなければいけませんね。そのため、水素基をもつデオキシリボースから構成されるDNAは安定した物質なのです。

RNAの種類

メッセンジャーRNA (messenger RNA / mRNA)

DNAが転写される様子(赤い一本鎖がRNA)

メッセンジャーRNAは、DNAから遺伝情報を運び、タンパク質の合成をする際の鋳型となります。

DNAの98%はタンパク質をコードしない「ジャンクDNA」と呼ばれるものなのですが、mRNAはアミノ酸をコードする領域が多くなっています。

例えば、フェニルアラニン水酸化酵素のmRNAは2400のヌクレオチドが連なっていますが、これは452のアミノ酸をコードしています。これは、mRNAの50%以上がアミノ酸をコードしているということです。2

tRNA(トランスファーRNA)

トランスファーRNAは、特定のアミノ酸と結びついて、それを運搬うんぱん(トランスファー)するRNAです。

mRNAとtRNAが相補的になることによって、アミノ酸が並んでいきます。mRNAの塩基3つを1セットとしてコドンと呼びますが、tRNAのもつ塩基3つはコドンに相反する(アンチ)ので「アンチコドン」と呼ばれます。

アミノ酸は20種類しかありませんが、tRNAは40種類以上もあります。これは、異なるアンチコドンをもつ複数のtRNAが同じアミノ酸に結合するからです。

リボソームRNA (ribosome RNA / rRNA)

リボソームRNAはタンパク質合成が行われる細胞小器官であるリボソームの構成要素です。

追記・参考文献

  1. 無性生殖の場合この限りではありません。
  2. エッセンシャル 遺伝学・ゲノム科学(原著第7版)』Daniel L. Hartl (著), 化学同人, 2021
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