お酒の強さは遺伝! 日本人の多くが「下戸」の遺伝子をもっている

お酒に強いか弱いかは遺伝的なもので、2つの遺伝子が関わっていると考えられています。

以下の表は、日本人のお酒の強さの出現頻度の割合です。アルコールへの耐性は、遺伝子の組み合わせにより、9段階に分けることができるのですが、表からわかるように、日本人はあまりお酒に強くない、いわゆる「下戸げこ」が多いと考えることができます。

お酒に強い遺伝子の出現割合1

では、お酒の強さと遺伝子の関係性について解説していきます!

この記事でわかること
  • お酒の強さが遺伝である理由
  • お酒の強さに関係する遺伝子
  • 【発展】お酒に対して弱くさせる一塩基多型(スニップ)

お酒への強さに関係する2つの遺伝子

わたしたちは「アルコール分解酵素(ADH1B)2」と「アルデヒド分解酵素(ALDH2)」という2つの酵素をもっています。酵素とは、簡単にいえば、ある物質を他の物質に変化させる手助けをするはたらきのある物質のことです。

アルコール分解酵素「ADH1B」

まずお酒を飲むと、アルコール分解酵素によって、アルコールがアセトアルデヒドに分解されます。

アセトアルデヒドには毒性があります。そのため、お酒を飲むと体調が悪くなったり、二日酔いになったりするのです。アセトアルデヒドは体内にたまりすぎると非常に危険な猛毒で、お酒で命を落とす人がいるのもこのためです。

アルデヒド分解酵素「ALDH2」

しかし、猛毒アセトアルデヒドで私たちがが死なないのは、アセトアルデヒドを無害な物質に変える酵素がはたらくからです。

アルデヒド分解酵素は、アセトアルデヒドを酢酸に分解します。

酢酸とは「お酢」のことです。酢酸は無害なので、アルコールがアセトアルデヒドになっても体調が悪くなっても、アルデヒド分解酵素がアセトアルデヒドを酢酸にしてくれるので、しばらくすれば元に戻るということです。

ここまでの内容をまとめると、上の図のようになります。お酒への強さとは、この2つの酵素がどれくらい早く・しっかりと働くかということです。

遺伝子と酵素の関係

酵素は遺伝子によって作られます。ある酵素Aを作る「遺伝子A」をもっていたら酵素Aが作られる、酵素Aを作る遺伝子の代わりに酵素Bを作る「遺伝子B」をもっていたら酵素Bが作られるということです。

なぜ遺伝子が酵素を作るかということは、遺伝子の「転写」「翻訳」というプロセスについて話さなければならないのですが、転写や翻訳について話すと長くなるので割愛します。ただ、遺伝子が酵素を作る、ということだけ知っていればOKです。

転写や翻訳について知らなくても、この記事は読み進められますが、興味がある方は別記事を参照してください。

お酒に強い遺伝子

お酒への強さは9つのレベルがあります。お酒に強い遺伝子の組み合わせを「1型」、お酒に弱い遺伝子の組み合わせを「2型」とし、その中間型を「2-1型」とします。3つの種類があるのはメンデルの法則です。

お酒の強さに関連する酵素は2つあるので、3 ✕ 3 で9通りの段階に分けられます。

お酒に強い遺伝子の出現割合

お酒の強さ① アセトアルデヒドをすばやく分解できること

アセトアルデヒドの分解能力が正常な「ALDH21型」の人は、お酒に強いといえます。もっているアルコール分解酵素にかかわらずです。なぜならば、毒性のあるアセトアルデヒドをすぐに分解できるからです。

「2型」の人は、アセトアルデヒドを分解することができないので、まったくお酒が飲めません。アルコールを少しでも飲めば、確実に体調が悪くなり、たくさん飲んだら命の危険にもさらされてしまいます。

また、「2-1型」の酵素は「1型」の酵素の1割以下のはたらきしかしないと考えられているので、やはりお酒に弱い体質となってしまいます。

お酒の強さ② アルコールの分解能力が遅いこと

アルコールが血中にあるときが、わたしたちが「お酒を楽しんでいる」時間です。アルコールがアセトアルデヒドに分解されたら体調が悪くなります。

なので、アルコールがすばやく分解されてしまうことは、お酒に弱いことになってしまいます。お酒の強さにおいては、酵素がはたらかないほうがよいことになります。なので、アルコールの分解能力が低いADH1B「1型」の酵素をもっていると、お酒に強いことになります。

しかし、アジア人はアルコールを分解するのが早い「2型」の酵素をもっている人が多いといわれています。そのため、すぐにアルコールが分解されて、アセトアルデヒドができてしまい、体調が悪くなってしまうのです。

全員お酒に強い白人と黒人

基本的に東アジア人以外は全員、表の①の最もお酒に強い遺伝子の組み合わせをもっています。なので、白人や黒人は全員、アルコールの分解が遅いため、長い間アルコールに酔った状態を楽しめ、アルコールがアセトアルデヒドに分解されたら、それをすぐに分解することができるのです。

一方、東アジアの人だけがアルデヒドを速やかに分解できないALDH2遺伝子をもっているようです。3

また、日本においては地域ごとにも差があります。近畿地方では人口の半数が下戸であるというデータがあり、逆に沖縄や東北の人はお酒に強い人が多いようです。4

アジア人だけがお酒に弱い理由

アジア人だけがお酒に弱くなってしまうのは、アジア人だけにアルデヒド分解酵素を機能不全にさせてしまうALDH2遺伝子の一塩基多型(SNP/スニップ)が存在するからです。

スニップとは、ある集団内において、DNAの塩基配列のうち1つだけが異なるという変異が広く見られることをいいます。遺伝子のDNAのたった1つの塩基の違いが、まったくアセトアルデヒドを分解できない状態にしてしまうのです。

一塩基多型(SNP/スニップ)が引き起こすALDH2遺伝子の異常

ALDH2遺伝子の塩基配列の一部に「GAA」という部分があります。この塩基配列が1文字変わって「AAA」となっている人が東アジア人には多く存在します。

「GGA」が「AAA」と1文字変わっているだけですが、これにより、このコドンに対応するアミノ酸が「グルタミン酸」から「リシン」に変わります。この1塩基の違いにより、正常にはたらかないアルデヒド分解酵素が作られてしまいます。

わたしたちは遺伝子の半分を父親から、もう半分を母親から受け継ぎます。2つの「GAAタイプ」のALDH2遺伝子をもつ場合、アセトアルデヒドを速やかに分解できます。

しかし、2つのうち1つが「AAAタイプ」のALDH2遺伝子である場合、アセトアルデヒドを分解できる酵素が半分しかないことになります。もし、両方とも「AAAタイプ」である場合、アセトアルデヒドを分解する能力はゼロとなってしまいます。

GAA/AAAのヘテロ接合の場合もお酒に弱くなる理由

片方の遺伝子が「GAAタイプ」、もう片方が「AAAタイプ」というヘテロ接合の組み合わせをもつ場合、半分の酵素は正常なので、そこそこお酒に強くてもよさそうですよね。

しかし、実際にはお酒には弱くなってしまいます。この理由はALDH2酵素の機能の仕方にあります。

ALDH2酵素は、4つのサブユニットが合体して1つの「四量体」を形成することにより、アセトアルデヒドを分解します。

そのため、ヘテロ接合の人は、変異タイプを含む四量体の酵素を形成してしまうのです。1つでも変異タイプを含む四量体は安定性がなくなってしまいます。なので、アルデヒドを分解する能力が非常に低くなってしまうのです。

AAAタイプのホモ接合の遺伝子をもつ場合は、四量体の形成そのものが難しくなるので、酵素としての機能が失われてしまいます。そのため、全くお酒が飲めないのです。

追記・参考文献

  1. DNA鑑定 犯罪捜査から新種発見、日本人の起源まで』梅津和夫, 講談社, 2019 図1-2を参照し、生物学日誌が作成
  2. 正式には「アルコール脱水素酵素」といいますが、多くの文献でわかりやすく「アルコール分解酵素」という言葉が使われているので、この記事でも俗名に習っています。
  3. 遺伝人類学入門』太田博樹, 筑摩書房, 2018
  4. DNA鑑定 犯罪捜査から新種発見、日本人の起源まで』梅津和夫, 講談社, 2019
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